インドでは、結婚が決まると花嫁側の家族が新郎側の家族に「持参金(ダウリー)」を渡します。現金、金の装飾品、バイク、家電……その内容は両家の交渉で決まります。
この制度、インドでは1961年に法律で禁止されました。渡す側も受け取る側も、どちらも罪に問われます。
それでも今も続いています。そして2024年のデータによると、持参金をめぐるトラブルで命を落とした女性は年間5,737人。1日に換算すると16人です。
日本に来て8年、インド出身の私(シワニ)はこの問題を「知っている」だけでなく、自分の家族や友人の話として聞いてきた立場から、できるだけ正直にお伝えします。
ダウリーとは何か
日本には「結納金」という慣習があります。結婚の際に新郎側の家族が新婦側にお金を渡す、というものですね。インドはその逆です。
インドでは、結婚が決まると女性側の家族が男性側の家族に「持参金(ダウリー)」を渡します。
もともとこの持参金には「女性の実家から娘に渡す前渡しの遺産」という意味合いがあったようです。娘が嫁いだあとも困らないように、実家から財産を持たせて送り出す——そういう発想です。
ところが今では、持参金は「結婚の条件」になっています。
結婚が決まると、両家の間で話し合いが行われ、持参金の内容と金額が決められます。お互いが納得できなければ、結婚の話が中断することもあります。
「バイクが届かなければ結婚しない」
持参金の交渉は、具体的にどんなものか。私の著書にも書いたエピソードがあります。
男性側が「現金100万ルピーに、金20グラム(ネックレスやバングル)、バイク1台をください」と希望を出した。結婚式当日、バイクが届いていないことを知った新郎が激怒し、式を中断してそのまま帰ってしまった——。
後にバイクは届いたものの、式はすでに中止され、両家が警察沙汰になったとニュースで報じられていました。バイクや金は「男側の家族のメンツ」「親戚の期待」に結びついているため、「届かない=侮辱された」と受け取られるんです。
持参金の金額に決まりはなく、家柄や相手の条件によって変わります。女性が「美人だから」安くなることもあるし、「働いていて稼げるから」と多少安くなることもある。そんな交渉が、今でも普通に行われています。
「ギフト」という名の抜け穴
繰り返しますが、この持参金制度はインドで1961年に法律で禁止されています。渡す側も受け取る側も、どちらも罪に問われます。
ではなぜ続いているのか。
今は「ギフト」という形でやりとりされることが多くなっています。「贈り物」という名目で、女性側が男性側やその家族にプレゼントを渡すのです。中身は現金のこともあれば、車、金や銀の装飾品、金の指輪、銀の鍋や食器だったりします。
法律で禁止されても、「ギフト」と呼び方を変えれば続けられる。65年経っても変わらない理由のひとつです。
娘が生まれたら貯金を始める
インドにこんな諺があります。
「マハラジャ(王様)でも、娘を3人持つと破産する」
娘が生まれたその日から、持参金の準備が始まる家庭も多いといいます。
この経済的な重荷が長年にわたって続いたことで、かつては「お腹の子が女の子だとわかったら中絶する」という家庭も多く、女性の人口が大幅に減ってしまった時期がありました。
そこで1994年、インドでは出生前の性別検査が法律で禁止されました。親が医師に性別を聞いた場合は罰金が科され、性別を教えた医師は医師免許の剥奪や病院の閉鎖といった処分を受けることがあります。
持参金の問題が、出生前の性別選択という別の問題を生んでいた——それほど深く、社会に根を張っていたということです。
持参金が少ないと、何が起きるか
持参金が少ない、あるいは約束した額が届かないと、嫁いだ先で虐待されるケースがあります。
「実家のお父さんに頼んで、もっとお金を持ってきなさい」と言われる。女性が実家に逃げ帰っても、「もっとお金を出すから、もう少し頑張りなさい」と金や宝石を持たされて嫁ぎ先に戻されることが多いというのが実情です。
インドの離婚率は約1%。法律的には離婚できますが、社会的・宗教的にタブー視されていること、「親や家族との縁が切れる」という怖れが、逃げることをさらに難しくしています。
2024年のNCRB(インド国家犯罪記録局)の刑事統計では、持参金関連の死亡として年間5,737件が登録されています。また同年の自殺統計(別集計)では、1,693件がダウリーを原因とする自殺として分類されました。件数が最も多いのはウッタル・プラデーシュ州で、全体の3分の1以上を占めます。
変わりつつあること
持参金に反対する女性は増えています。「結婚式の費用は折半にしよう」というカップルも出てきました。新郎本人が「持参金はいらない」という考えを持つケースも珍しくありません。
ただ、新郎本人がそう思っていても、その親や親戚が「持参金をもらうのは当たり前だ」と言ってくるケースが多く、結局は女性側の負担が大きくなってしまうことが多いのが現実です。
インドの若い世代は確実に変わっています。でも、家族や親族のプレッシャーという壁は、まだ高い。
インド人女性として、思うこと
私はインド出身ですが、持参金を経験しないまま日本に来ました。でも、友人やきょうだいから話を聞くたびに、「ひどい話だ」と思います。本にもそのまま書きました。
持参金が足りないと言われ、夫やその家族からハラスメントや虐待を受けながらも耐えてきた女性たちが、こう言われることがあります。「あなたたちは強い」と。
でも私は、それを褒め言葉だとは思えません。
本当に乗り越えたのか。心に消えない傷が残っているかもしれない。一生消えないトラウマになっているかもしれない。「乗り越えた」のではなく、そうするしか選択肢がなかっただけかもしれない。逃げられなかっただけかもしれない。
その経験を「強さ」と呼んで美化することは、私にはできません。おかしいことは、おかしい。こんなことで強くなる必要なんて、そもそもないんです。
私が強く思うのは、女性がもっと教育を受け、経済的に自律することです。自分でお金を稼げる女性は、持参金の交渉で値踏みされない。実家に逃げ帰ったとき、「お金を持って戻りなさい」と言われずに済む選択肢が増える。離婚できない理由のひとつが、経済的な依存であることも多い。
教育と自律こそが、この問題を変える一番の力だと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q. ダウリーはすべてのインド人に関係する慣習ですか?
A. 宗教・地域・家庭によって状況は異なります。都市部の教育水準が高い家庭では持参金を行わないケースも増えています。ただし農村部や一部の地域では今も広く行われており、インド全体の問題として統計にも表れています。
Q. インドで結婚する際、日本人側に持参金の要求が来ることはありますか?
A. ゼロではありませんが、国際結婚の場合はその家庭によります。ただ、インド人パートナーの親族との関係で「ギフト」として何かを渡すことを期待される可能性はあります。結婚前に相手の家庭の考え方を確認することが大切です。
Q. 持参金問題は改善されていますか?
A. 若い世代を中心に意識は変わってきています。ただし統計上の件数は依然として高く、2024年も年間5,737件の死亡が記録されています。法律があっても「ギフト」として続く構造的な問題が残っています。
この記事のもとになった本を読む
インドの結婚事情・持参金問題・離婚率・お見合い結婚のリアルから、インド人のメンタルや食文化まで、日本在住8年のシワニが書き下ろした初の著書です。

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この記事はシワニの著書『ぶっとび!人生が踊るインド・メンタル あらゆる悩みを3秒で吹き飛ばす最強哲学』(KADOKAWA)の内容をもとに、シワニが加筆・再構成しました。
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