日本で暮らしていると、よく聞かれます。「毎日カレー食べてるの?」
私(シワニ)は日本に来て7年、この質問を何百回受けたかわかりません。
怒ってはいないです。でも、正直に言います。インド人はカレーを食べていません。少なくとも、日本人が想像している「カレー」は。
インド人は自分の料理を「カレー」と呼ばない
インドには、スパイスを使った料理が無数にあります。煮込み料理、炒め物、揚げ物、蒸し料理、焼き料理……それぞれに名前があって、地域によって味も見た目もまったく違います。
「カレー」という言葉の由来は、南インドのタミル語で「ソース」や「おかず」を意味する「カリ(கறி)」だという説が有力です。イギリスがインドを植民地支配した際、この言葉を英語化して「curry」と呼び、スパイスを使ったインド料理全般を指す言葉として世界中に広めたと言われています。
想像してみてください。もし日本がかつて外国に支配されていて、その支配者が「日本料理には醤油・味噌・みりんが使われている」と気づいて、それをまとめて「ソハ」と名付けて世界中に広めたとします。刺身も、肉じゃがも、照り焼きも、ラーメンも、全部「ソハ」。細かい違いは無視されて、「日本料理は何でもソハ味でしょ」とひとくくりにされる。外国人が日本人に「毎日ソハ食べてるの?」と聞いてくる。 インドで起きたのは、それと同じことです。「インド料理にはターメリック・クミン・コリアンダーなどのスパイスが使われている」と気づいたイギリスが、それを「カレー」と呼んで世界中に広めた。スパイスの組み合わせも、料理の形も、地域によってまったく違うのに、全部「カレー」になった。インド人の感覚では、自分たちが食べているものに「カレー」という共通名はないんです。
「カレー」という言葉がインドに存在しないわけではありません。インドのレストランのメニューを見ると、40品あれば「カレー」と書かれているのは2〜3品ほど。しかもその使われ方は非常に曖昧で、料理の特徴を表すというより、スープ状の煮込み料理をざっくりと指す言葉として使われます。バターチキンカレーといえば甘みのあるクリーミーな味わい、チキンマサラカレーといえば辛さのある仕上がり——同じ「カレー」でも、味も見た目もまったく違います。日本で「カレー」という言葉が持つイメージとは、かなり異なる使われ方をしているんです。
インド人の30〜40%はそもそも肉を食べない。残りも人それぞれ
もうひとつ、よく誤解されていること。インドは世界屈指のベジタリアン大国で、人口の約30〜40%がベジタリアンです。
宗教や家庭の方針によって食べられるものが異なり、肉全般を食べない人、牛だけ食べない人、豚だけ食べない人、卵もダメな人……組み合わせはさまざまです。
では残りの60〜70%は毎日肉を食べているのかというと、それも違います。毎日シーフードや肉を食べる人もいれば、週に1回、月に1回という人もいます。肉を食べるかどうかは宗教だけでなく、家庭の習慣、経済的な事情、個人の好みによってもバラバラです。
「インド料理=肉のカレー」というイメージは、実際のインドの食卓とはかなりかけ離れています。野菜や豆が主役の料理のほうが、むしろ日常的です。
インド人が実際に食べているもの
私が子どもの頃から食べていた料理をいくつか紹介します。
ヴァランバート トゥールダル(黄色いえんどう豆)をシンプルに煮てごはんにかけたマハラシュトラの家庭料理。スパイスは控えめで、ほっとする味わいです。日本でいう肉じゃがのような、毎日の食卓に必ずある定番です。
ビンディマサラ オクラをスパイスとにんにくで炒めたシンプルな野菜炒め。家庭で毎日のように作られる料理です。
チョーレバトゥーレ ひよこ豆のスパイシーな煮込みを、風船のように膨らんだ揚げパンと一緒に食べます。朝ごはんにも出てくる定番です。
ドーサ 米と豆を発酵させた生地で作る薄焼きのクレープのような料理。南インドの代表的な朝食です。
どれもスパイスは使いますが、「カレー」ではありません。
インド料理は全部スパイス入りというのも誤解
「インド料理=スパイスたっぷり」というイメージも、インド全体には当てはまりません。
インド北東部——ナガランド、ミゾラム、マニプルなどの州——の料理は、発酵食品や燻製、竹の子を使った料理が中心です。複雑なスパイスブレンドはほとんど使わず、インドの他の地域とは味も見た目もまったく違います。ナガランドでは燻製の豚肉と発酵大豆(アフニ/アホニ)を合わせた料理が定番で、同じインドとは思えないほど個性的な食文化が根付いています。
もう一つ、ジャイナ教の料理も独特です。ジャイナ教徒は肉・魚・卵を食べないだけでなく、玉ねぎ・にんにく・じゃがいも・にんじんなどの根菜類も口にしません。土の中から引き抜く際に植物ごと命を絶つことになるという考え方からです。では何を食べるのかというと、豆類・米・葉野菜・乳製品が中心。ヒング(アサフェティダ)という樹脂スパイスを玉ねぎ・にんにくの代わりに使い、グジャラート発祥のカマン(蒸したひよこ豆ケーキ)など、根菜なしで成立するジャイナ料理が各地にあります。グジャラートやラジャスタン、マハラシュトラでは「ジャイナ食対応」のレストランが普通に存在します。
屋台で食べるのが一番おいしい
インドの食文化を語るとき、屋台(ストリートフード)を外すことはできません。
サモサはスパイスの効いたじゃがいもが入った三角形の揚げパイ。どの屋台でも売られているインドの国民食です。パニプリは揚げたクラッカーに豆や野菜を詰めてスープをかけて食べるもので、塩気と甘さが絶妙。ジャレビは渦巻き状に揚げてシロップに浸した甘いお菓子で、熱々のうちに食べるのがおすすめです。
日本にはコンビニがありますが、インドでは屋台がその役割を担っています。食事も、おやつも、飲み物も、必要なものはほぼ屋台で揃います。
真夏でも「アイスチャイ」は存在しない
もうひとつ、日本に来て驚いたこと。日本ではアイスチャイがメニューにあるんですね。
インドでは、気温40度を超える真夏でも、チャイは熱々で飲むものです。「アイスチャイください」と言ったら、インドのお店では怪訝な顔をされると思います。
チャイはスパイスを煮出したミルクティーで、体を温めるものという位置づけ。暑いときこそ熱いものを飲むという感覚が、インドには根付いています。
「毎日カレー食べてるの?」への本音の答え
改めて聞かれたら、こう答えます。
「カレーは食べていません。スパイスを使った料理は毎日食べています。でも、それをカレーとは呼びません」
インド料理は、スパイスの組み合わせと地域によって無限に広がる世界です。北インドと南インドでは食文化がまったく違うし、家庭ごとに味も違う。肉を食べるかどうかも、頻度も、人によってバラバラです。それを「カレー」という一言で片付けてしまうのは、あまりにももったいないと思っています。
もしインド人の友人や恋人ができたら、ぜひ「好きな料理は何?」と聞いてみてください。きっと「カレー」以外の名前が返ってきます。
よくある質問(FAQ)
Q. インド料理は全部辛いのですか?
A. そんなことはありません。ベジタリアン料理の中には辛さゼロのものも多いです。また家庭料理は辛さを調整して作ることが多く、子どもも食べられる料理がたくさんあります。「辛さは後から足す」のがインド家庭の基本スタイルです。
Q. インドでベジタリアン以外の料理も食べられますか?
A. もちろんです。ただ、地域によっては肉料理を出すお店が少ない場所もあります。北インドではチキンやマトンを使った料理が多いですが、南インドや一部の州ではベジタリアン食が主流です。旅行前に行き先の食文化を調べておくと安心です。
Q. バターチキンはカレーですか?
A. 日本ではカレーと呼ばれることが多いですが、インドでは「バターチキン」または「マカニ」という独立した料理です。デリー発祥の料理で、鶏肉をバターとトマトのソースで煮込んだもの。スパイスは使いますが、いわゆる「カレー粉」の味とは別物です。
もっと深く知りたい方へ:著書のご紹介
インドの食文化・屋台グルメ・ベジタリアン事情から、インド人のメンタルや結婚観まで、日本在住7年のシワニが書き下ろした初の著書です。

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この記事はシワニの著書『ぶっとび!人生が踊るインド・メンタル あらゆる悩みを3秒で吹き飛ばす最強哲学』(KADOKAWA)の内容をもとに、シワニが再構成しました。
シリーズ「インドのよくある誤解」
「インドって、こうでしょ?」を、インド人のシワニがひとつずつほどいています。続けてどうぞ。