「インド人ってみんなベジタリアンなんでしょ?」

日本でよく聞かれます。答えは半分正解で、半分大きな誤解です。

インドには約4割のベジタリアンがいます。ただし「ベジタリアン」の定義は調査方法によって大きく変わります。そして「ベジタリアン」の中にも、実はいくつもの種類があって、「何を食べて、何を食べないか」がそれぞれ全然違います。

日本に来て8年、インド出身の私(シワニ)が、インドの食と宗教と文化が複雑に絡み合ったベジタリアン事情を、全部話します。

インド人の約4割がベジタリアン——でも残り6割はノンベジ

Pew Research Center(2021年)の調査によると、インド人口の約39%が自称ベジタリアン。世界最大のベジタリアン人口を誇る国です。

ただし、地域によって差が大きい。

北西部のラジャスタン州では約75%がベジタリアン。グジャラート州も60%台前半(NFHS-5, 2019-21)。一方、南部・東部はまったく違います。ケーララ州はわずか約3%、西ベンガル州は1〜3%程度(Pew Research 2021)——沿岸部は魚介類が豊富なので、ノンベジが当たり前の文化です。

「インド人はみんな菜食」というイメージは、北インドや宗教的に厳格な家庭のイメージが強く広まったもの。インドは広い。食の文化も、地域によってまったく違います。

また宗教別に見ると、ジャイナ教徒の92%がベジタリアン。ヒンドゥー教徒は約44%。イスラム教徒は約8%(豚はNGですが肉食は制限されていません)。同じ「インド人」でも、信仰によって食は大きく変わります。

ベジタリアンにも種類がある——代表的なタイプ

「ベジタリアンです」と言っても、インドでは何を指すのかが人によって全然違います。

① ラクト・ベジタリアン(Lacto Vegetarian)
乳製品はOK、卵はNG、肉・魚はNG。インドのベジタリアンの主流です。ギー(精製バター)・チーズ・ヨーグルトは食べます。ヒンドゥー教・ジャイナ教の伝統的なスタイル。

② エッグタリアン(Eggetarian)
卵はOK、肉・魚はNG。「egg+vegetarian」というインドで特によく使われる言葉。ベジタリアンとノンベジの間に位置する存在です。このカテゴリーが存在すること自体、日本では想像しにくいかもしれません。

③ ジャイナ食(Jain Vegetarian)
乳製品はOK、卵・肉・魚はNG——そして根菜類もNG。じゃがいも・玉ねぎ・にんにく・にんじん・大根なども食べません。詳しくは後述します。

④ サットヴィック食(Sattvic Diet)
アーユルヴェーダやヨーガ哲学に基づく「純粋食」。肉・卵・玉ねぎ・にんにく・刺激物・アルコールNG。精神的な清浄さを食から保つという考え方です。

日本で「ベジタリアンです」と言えば大体イメージが共有できますが、インドでは「どのタイプのベジタリアンか」を確認しないと、食事の用意ができません。これだけでも代表的なものを挙げましたが、実際にはさらに細かい区分や個人のルールが存在します。

ノンベジにも、いろんなスタイルがある

インドでは月に1回でも肉を食べればノンベジです。ただ、ひとくちにノンベジといっても、食べ方のスタイルは人によってさまざまです。

特定の曜日だけ肉を食べない
月曜日(シヴァ神の日)や火曜日・土曜日など、宗教的に縁起のある曜日は肉を食べない、という人が多い。私の実家もこのタイプでした。普段はノンベジだけど、決まった曜日はベジ——家の台所がその日だけ変わります。

家族に隠れて肉を食べる
家では完全ベジ、でも外では肉を食べる。家族に知られないように、という人も珍しくありません。

肉は残して、ソースだけすくって食べる
肉そのものは食べないけど、肉が入った料理のソース(日本でいうカレーのルーに近いもの)だけすくって食べる、という人もいます。「肉を食べてるわけじゃない」という解釈。日本人から見ると「それはもう食べてるのでは?」と思うかもしれませんが、インドでは割とある話です。

こんなエピソードがあります。私が日本で「ベジタリアンです」と言ったとき、「じゃあシーフードは食べられる?」と聞かれてびっくりしました。ベジタリアンは肉がNGなので、当然シーフードも食べません。日本ではベジタリアン=「魚はOK」のイメージがあるのかもしれませんが、インドのベジタリアンにとっては「え?」という感覚です。

卵はベジ?ノンベジ?——インドで今も続く論争

「卵を食べたらベジタリアンじゃないの?」——インドではこれが本当に議論になります。

公式の答えはあります。インドの食品安全基準局(FSSAI)は、卵をノンベジタリアン食品に分類しています。食品パッケージに表示が義務づけられている「ドットマーク」でも、卵入りの食品には茶色のドットがつきます(後述)。

でも現実には、「卵くらいいいじゃないか」と考えるエッグタリアンが一定数います。厳格なジャイナ教徒や信仰心の強いバラモンの家庭にとっては「とんでもない」話ですが、バラモンでも普通に卵を食べる家族もいます。都市部の若い世代には「卵はOK」という感覚の人も増えています。

西洋のベジタリアン(卵OKが一般的)とはまったく逆の発想。インドのベジタリアンは、むしろ「卵はNG」が基本です。

食品パッケージの緑ドット・茶ドット——法律で義務付けられている

インドのスーパーやコンビニで食品を手に取ると、パッケージの隅に小さなドットマークがついています。

現行マーク(2022年改定)

現行FSSAIマーク:左=ベジ(緑・丸)、右=ノンベジ(茶・三角)

左:ベジ(緑の丸)/右:ノンベジ(茶色の三角)

旧マーク(今も多くの商品に残っている)

旧ノンベジマーク(茶色・丸)茶色の四角+円(○)=ノンベジタリアン食品

これはFSSAI(インド食品安全基準局)が2011年に定めた法律による義務です。ベジタリアンが多いインドでは、食品を選ぶときにこのマークが命綱になります。

インスタント食品・スナック・調味料・お菓子まで、すべての加工食品にこのマークがついています。日本でこういう制度を見たことはありませんよね。インドに来たとき、最初にこれを知ったときは「ここまで徹底してるんだ」と驚きました。

ジャイナ教は玉ねぎ・にんにく・じゃがいもも食べない

ジャイナ食の料理(根菜不使用)
根菜を使わないジャイナ料理の例(ドーサ・パウバジ・チョーレバトゥーレ)

インドの宗教の一つ、ジャイナ教の食の制限は特に厳格です。

肉・魚・卵はもちろんNG。それに加えて、信仰に厳格なジャイナ教徒の多くは根菜類も食べません。じゃがいも・玉ねぎ・にんにく・にんじん・大根・ごぼう……土の中で育つ野菜を避けるのが伝統的なルールです。

理由は「アヒンサー(不殺生)」という教えにあります。根を抜くと植物全体が死に、さらに土中の微生物まで傷つける——それさえも避けるべきだという考え方です。

インドのレストランでは「Jain food available(ジャイナ食対応)」と表示している店があります。玉ねぎ・にんにくなしで調理できる店、という意味です。インドの人口の約0.37%がジャイナ教徒(約445万人、2011年国勢調査)ですが、経済的影響力が大きく、都市部のレストランでは対応が当たり前になっています。

日本にいると「野菜なのに食べられない野菜がある」という発想はなかなかピンと来ないかもしれません。でもこれがインドの日常です。

ヴィーガンはどうなの?

「インドにヴィーガンはいるの?」とよく聞かれます。います。でも、インドにおいてヴィーガンはまだ少数派です。

ヴィーガンは乳製品も卵も一切食べません。ここが、インドのベジタリアン(ラクト・ベジタリアン)との大きな違いです。インドの食文化には、ギー(精製バター)・パニール(チーズ)・ダヒー(ヨーグルト)・チャイ(ミルクティー)が深く根付いています。これらをすべて手放すのは、インド人にとっても簡単ではありません。

都市部の若い世代を中心に、健康意識や動物倫理からヴィーガンを選ぶ人が増えてきています。ただ、インド社会全体ではまだ「ヴィーガン」という概念自体が新しく、外食でヴィーガン対応を求めると難しい場面も多いのが現状です。

結婚の条件にも「ベジ/ノンベジ」が入る

インドの結婚プロフィール(Biodata)には、年齢・学歴・職業と並んで食の好みが記載されます。ベジタリアンか、ノンベジか。

「一緒に暮らして、同じ台所を使って生活できるか」——これが結婚相手を選ぶ大事な条件のひとつになっているのです。

特にバラモンやジャイナ教徒の家庭では「家に肉を持ち込まない」が絶対条件になることもあります。ベジタリアンの家庭にノンベジの配偶者が来て、こっそり肉を食べる——これが家族の大きな摩擦になるケースも珍しくありません。

マッチングアプリでも「Veg only」という条件で絞り込む機能があるほど。食の選択が、人生のパートナー選びにまで影響している。それがインドという国です。

よくある質問(FAQ)

Q. 日本でインド人をもてなすとき、何を用意すればいい?

A. まず「ベジタリアンですか?」と確認するのが第一歩。ベジの場合は卵も避けた料理を。さらに「ジャイナ食ですか?」と確認できると完璧です。玉ねぎ・にんにく不使用かどうかまで確認しましょう。相手への気遣いを見せるだけで、とても喜ばれます。

Q. インドのレストランはベジとノンベジで完全に分かれているの?

A. 完全ベジの店、ノンベジの店、両方ある店の3種類があります。店の看板や入口に「Veg」「Non-Veg」と表示されているので、入る前に確認できます。ベジの店では肉・魚・卵のどれも一切出てきません。

Q. シワニはベジタリアン?

A. インドにいたころはベジタリアンでした。実家では決まった曜日だけ肉を食べる家族で、私自身は肉を食べない生活をしていました。

でも日本に来てから変わりました。仕事が忙しくて外で買うことが多いのですが、肉なしで選べるものが本当に少ない。野菜炒めにも肉が入っている。コンビニのおにぎり・お弁当も、ベジで食べられるものを探すのが大変でした。

結果として、日本の生活に合わせて肉を食べ始めました。今はできるときにヴィーガン生活を心がけています。


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この記事はシワニが執筆しました。

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