インド人に英語で話しかけたら、通じなかった——そんな経験をした人が実は少なくありません。
インドで英語を話せる人は、2011年の国勢調査によると全体の約10%です。ただし自己申告のため、片言程度の人も含まれています。ネイティブ並みに流暢な人となると、ごくわずかだと私は感じています。
「インドでは英語が通じるから、みんな話せるはず」。でも、これは大きな誤解です。
日本に来て8年、インド出身の私(シワニ)が、インドのリアルな言語事情をお話しします。
英語話者は10%——データが示す現実
インド政府が実施した2011年の国勢調査によると、英語を「話せる」と回答したのは人口の約10.6%。これは第一言語・第二言語・第三言語すべてを合計した数字です。英語を母語として話す人はわずか0.02%。日常的に英語を使っているのは、本当に一部の人だけなんです。
たとえば、観光地でリキシャ(オート三輪タクシー)の運転手さんが「Where go?」「100 rupees」と言っているのを聞いて、「英語を話せる」と思う方もいるかもしれません。でも、それはたいていの場合、外国人観光客に対して覚えた定番フレーズを繰り返しているだけで、普通の会話をしようとすると難しいことが多いです。
私の実感としても、なんとなく英語でやり取りできる人は10%くらい。本当に流暢に話せる人は5%もいないと思います。
インドは「14億人に100以上の言語が存在する」国
なぜこんなに英語話者が少ないのか。それを理解するには、インドの言語事情を知る必要があります。
インドはひとつの国ですが、インド憲法が認定している「指定言語」だけで22言語あります。2011年の国勢調査で整理された言語は121。さらに、人々が「母語」として申告した言語・方言まで数えると、1,000を超えるとも言われています。
「公用語はヒンディー語と英語でしょ?」と思う方もいるかもしれません。確かにその通りなのですが、ヒンディー語を母語として話すのは国民全体の約43%。北インドと中央インドでは広く使われていますが、南インドでは通じないことも多いんです。
私の出身はマハーラーシュトラ州。家族や地元の友だちと話すのはマラーティー語です。同じインド人でも、南インド出身の人と話すときは共通言語がないこともある。だから、インド人同士でもヒンディー語か英語でコミュニケーションを取る場面が出てきます。
日本でいう「なまり」や「方言」のレベルではありません。文字も、単語も、発音も、まったく別の言語なんです。
そしてここが面白いところなのですが、南インドでは「ヒンディー語より英語の方が通じる」ことがあります。特にタミル・ナードゥ州では、長年にわたってヒンディー語の全国普及に抵抗してきた歴史があります。「なぜ特定の言語を全国に押し付けるのか」という反発が根強く、北インドの人と南インドの人が話すとき、共通語として使うのはヒンディー語ではなく英語、ということも少なくありません(主に教育を受けた層や都市部の話です)。つまり、英語がどの地域の母語でもない「中立的な共通語」として機能しているという、少し不思議な状況が生まれているんです。
英語ができるかどうかが「人生を分ける」
では、なぜ「インド人は英語が話せる」というイメージが生まれたのでしょうか。
理由のひとつは、インドのエリート層・IT人材・都市部の高学歴層が英語を流暢に話すからです。グローバルなビジネスシーンで活躍するインド人のほとんどが英語話者であるため、外から見ると「インド人=英語が得意」という印象が生まれます。
実際、インドでは「英語ができなければいい会社に入れない」と言われています。だから、英語教育にお金をかけられる家庭の子どもたちは英語で授業を受け、英語力を武器に都市部や海外へ出ていく。一方、地方や農村部では英語教育の機会が限られていて、英語を話せる人はごく少数。
インドの英語格差は、経済格差と直結しているんです。
私自身は、母が「英語で授業を受けなさい」と強く望んでいたおかげで、英語で教育を受けることができました。将来のことを考えてくれていたんですね。でも、地元の何人かの友だちは、地域の言語で授業を受けていました。同じ学校の中に英語のクラスと地域言語のクラスがあり、どちらで学ぶかによって英語力には大きな差が生まれます。
「ヒングリッシュ」——インドが生んだ第三の言語
インド英語には、もうひとつ知っておくと面白いことがあります。それが「ヒングリッシュ(Hinglish)」と呼ばれる、ヒンディー語と英語が混ざったハイブリッド言語です。
- 「Kindly revert.」 — 「返信してください」という意味。英語本来の”revert”(元に戻る)とは違う使い方ですが、インドのビジネスメールではごく普通に登場します。
- 「cousin-brother / cousin-sister」 — 「いとこの男性 / いとこの女性」という表現。英語に「cousin」しかないので、性別を区別するために独自に作られた言い方です。
イギリスの言語学者デイビッド・クリスタルは、2004年ごろに、ヒングリッシュ話者の数が英語のネイティブスピーカーを超える可能性に言及したとされています。インドの人口規模を考えると、あながち大げさな話ではないかもしれません。
よくある質問(FAQ)
Q. インドで英語は通じますか?旅行で困りませんか?
A. 大都市(デリー、ムンバイ、バンガルール)の観光地・ホテル・ショッピングモールでは英語が通じることが多いです。ただし、地方や農村部、市場などでは英語が通じないことも多く、身振り手振りや翻訳アプリが役立ちます。最近はGoogle翻訳のカメラ機能も現地では重宝されています。
Q. インド人ビジネスパーソンはなぜ英語が上手なのですか?
A. 英語ができる人たちは、子どもの頃から英語で教育を受け、英語で仕事をするキャリアを積んでいます。英語ができることがいい仕事に就く条件でもあるため、都市部のビジネス層は非常に高い英語力を持っています。インドで英語を話せる人の「絶対数」はアメリカに次ぐ世界第2位ともいわれますが、それはインドの人口が約14億人と多いから。割合でいえば10%程度です。
Q. インド人同士は何語で話すのですか?
A. 出身地が同じであれば地域の言語、異なる場合はヒンディー語か英語で話すことが多いです。たとえば私(マハーラーシュトラ州出身)が南インド出身の同僚と話すときは、ヒンディー語か英語になります。インド国内でも「外国語」が必要になる場面があるのが、インドという国の面白いところです。
この記事のもとになった本を読む
インド人の結婚観・お金観・仕事観・食文化・日常の習慣まで、日本在住8年のシワニが書き下ろした初の著書です。

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この記事はシワニの著書『ぶっとび!人生が踊るインド・メンタル あらゆる悩みを3秒で吹き飛ばす最強哲学』(KADOKAWA)の内容をもとに、シワニが再構成しました。
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